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噴出す毒

暑かったから、朝から覚悟はしていた。
こんな日は誰だって、やる気なんて出ないよね。

「暑い」「だるい」「頭が痛い」
「生理痛」「手が痛い」「足が痛い」
「眠い」「かゆい」・・・・・・・。

授業中も休み時間も、関係なしに、
一人去ればまた一人、二人去ったら四人。
切れ目なく来室者が続く。
訴えを持った生徒だけで、午前中に三十人を超えた。
平均しても七分に一人。

暑いのも痛いのも、かゆいのも気持ち悪いのも、
きっと嘘じゃない。
だけど、あなたたちだけでもない。
みんなが我慢している中で、我慢できない人だけが集まっている。
そう思う気持ちは、抑えられない。

耐えること、待つことを知らない子どもたちは、
「自分を見て」という訴えを押し付けてくることしかしない。
二人を同時に相手することは出来ないと
何度言っても、聞く耳なんて当然持っていない。


それでもおっとりと、それでもにこやかに、
ただひとつひとつ、一人ひとり、
相手をしていた、受け止めようとしていた。

誰だってみな、すべてがうまくいっているから、頑張っているんじゃない。
多少どこかが痛くても、多少快適じゃなくても
我慢しなきゃならないことが、そうするしかしかたないことがあるじゃないか、と、
そう、子どもに向かって苛立つのは、大人げないことだろうか。


でも、もっと、大人げないことをした。


何かの不調を盾にして、授業を抜けて保健室に居座る少女相手に。


「学校辞めたーい」と言った少女に対して、
「私は仕事やめたいよ」と言い放ったときはまだ冗談だった。
「やめればいいじゃん」
「やめたら食べていかれないでしょ」

「生きていかなきゃならないから、だから、いやなコトだって我慢して
頑張っているんだよ」
といったときに、
「でもそれは、仕事としては楽なことでしょ」
と、彼女が言った。

どういう基準で決まっているのだろう、本当に、当然の前提として、
決まりきったこととして、そう彼女が言い放ったときに、
私の中の何かが、ぶちっと音を立てて切れた。


「なんで、そんなひどいことが言えるの?
いわれたほうがどんな気持ちになるかわかっているの?考えたことある?
毎日毎日、大勢のわがままと勝手の相手ばっかりして、
返ってくることばは『ラクでいいね』って、
誰にもわかってもらえなくて、誰にも助けてもらえなくて、
どれだけ我慢してると思うの??」

叱ったわけでは当然ない。
怒鳴ることも、声を荒げることもなく
静かな声で淡々と、私は彼女を追い詰めていった。
子どものわがままに対して、何を本気になっているのかと、
仕事も立場も忘れて、何を非常識なことをしているのかと、
そう、冷静に自分を見つめる自分がいても
からだの奥からあふれてくる毒を、もうどうにも押さえられなかった。


それは常識とか、道徳とかをとっくに超えて、
自分自身が生きてくる中で、そこかしこに澱のようにたまった毒を
ただ吐き出しているだけだった。
省みられることも報われることもあまりに少ないと
心のどこかで思ってしまっている自分の人生そのものに対しての
やりきれない思いが、
彼女たちには関係のないことだと、わかっていたにもかかわらず。

いい歳をして何をやっているのかと思う。
けれども、いい歳をしている分だけ、やりきれない記憶の量もまた多い。
持ち重りのするほどの量になった過去と、
閉塞感に満ちて、まだ、あまるほどに長い未来と
両方を持て余した自分は、
幼い中にはいっぱいいっぱいであろう悩みやつらさを抱えた彼女たちに
共感するゆとりを完全に失っていた。


14か15の幼い身に、中年女の毒を容赦なく浴びせられた少女は、
普段とは別人のように、ただ、黙り込んでいた。


ああ、最低だな、私。
こんなんで、現場にいていいのかな。
仕事続けていかれるのかな。
・・・いろんな思いが、自分の中でぐるぐるとめぐる。
コレがまた、新しい毒になって溜まって行くのだろうか・・・。


ちょうどそのころから、朝飲んだ薬が切れてきたのもあるのか、
意識朦朧として、ひたすら眠い状態が続いている。
現実逃避のような眠気。
私はちゃんとした大人になれるのだろうか・・・・・・。



明日は、経験者研修で一日、教育センターだ。
とりあえず、現場に戻らなくて済むのが救いだ。


申し訳ない思いを抱えながらも
謝るゆとりさえない、狭くて小さい大人が、
彼女を不幸にしないで済めばいいと、
そう思っているけれど・・・・・・・。
by noraneko_89 | 2005-06-27 23:08 | ねむいうつ


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